レッスン 1 / 6
AIエージェントとは?いつ使う?
学ぶコト
- AIエージェントとは何か(チャットのAI・ワークフローとの違い)
- エージェントのループ(考える→道具を使う→結果を見る)と、それを作る部品
- エージェントが向く仕事・向かない仕事の見分け方
- このコースで作るもの
このコースでは、AIエージェントを Python で作ります。AIエージェントとは、目的を伝えると、自分で道具を選んで使いながら、何ステップもかけて仕事を進めるAIのことです。
「エージェント」という言葉は、ここ1〜2年でとてもよく聞くようになりました。ChatGPT や Claude のアプリにも、調べものや作業を任せられる機能が増え、「AIコーディング入門」のコースで使った Claude Code も、コードを読んで、直して、テストを動かすエージェントです。
一方で、何でもエージェントにすればよいわけではありません。エージェントは時間もお金もかかり、思わぬ動きをすることもあります。最初のレッスンでは、コードに入る前に「エージェントとは何か」「どんな仕事に向いていて、どんな仕事に向いていないのか」をおさえます。
チャットのAIと、エージェントの違い
架空の文房具メーカー「みなと文具」の社員が、AIに次のように頼んだとします。
来週の大阪出張の交通費と宿泊費を、規程どおりに計算して、精算の申請の下書きを作って
ふつうのチャットのAIは、1回の答えを返して終わります。「一般的には、交通費は実費で…」のような説明か、それらしい金額の表を作ってくれますが、みなと文具の規程も、実際の出張の予定も知らないので、そのままでは使えません。
エージェントは、次のように動きます。
- 社内の資料を検索する道具で、出張旅費の規程を探す
- 予定表を読む道具で、来週の出張の日程と行き先を確かめる
- 規程の日当と宿泊費の上限を見て、計算の道具で金額を出す
- 申請の下書きを作る道具で、下書きを保存する
- 「下書きを作りました。内容を確かめて申請してください」と伝える
どの道具を、どの順番で使うかは、あらかじめ決めておらず、エージェントが途中の結果を見ながら決めます。規程が見つからなければ言葉を変えて探し直し、予定表に出張が2件あれば「どちらの出張ですか?」と聞き返します。
| チャットのAI | エージェント | |
|---|---|---|
| 1回の依頼で | 答えを1回返す | 何ステップも動く |
| 使えるもの | 学習した知識と、渡された文章 | 加えて、検索・計算・社内のシステムなどの道具 |
| すること | 言う(文章を作る) | する(調べる・計算する・保存する・送る) |
| 次に何をするか | 人が決める | AIが決める |
「PythonでAIチャットボットを作る」のコースでは、「関数を呼ばせる(Function Calling)」のレッスンで、注文を調べる関数をモデルに呼ばせました。「RAG」のコースでは、社内の資料を検索して答えるしくみを作りました。エージェントは、こうした道具をいくつも持たせて、どれをいつ使うかをモデルに任せ、ゴールまでくり返させるものだと考えると分かりやすいでしょう。
エージェントのループ
エージェントの動きは、次の3つのくり返しです。
依頼 → 考える → 道具を使う → 結果を見る → 考える → 道具を使う → 結果を見る → … → 答える
- 考える:これまでの記録(依頼・使った道具・その結果)を読んで、次に何をするかを決める。モデルの仕事
- 道具を使う:モデルが頼んだ道具を、プログラムが動かす
- 結果を見る:道具の結果を記録に足して、モデルにもう一度考えてもらう
モデルが「もう道具は要らない」と判断して答えを書いたら、ループは終わります。
RAG のコースで作ったヘルプデスクを、エージェントにした例で見てみましょう。社員の質問は「在宅勤務の日に出社したら、交通費は出る?」です。
[考える] 在宅勤務規程と交通費の決まりを調べる必要がある
[道具] search_docs("在宅勤務 出社 交通費")
[結果] 在宅勤務規程 第6条(在宅勤務手当)… / 経費精算規程 第2条(出張の交通費)…
[考える] 出張の交通費の決まりはあるが、在宅勤務の日の出社の交通費は書いていない。言い方を変えて探す
[道具] search_docs("通勤手当 在宅勤務の日")
[結果] 見つからない
[答える] 資料には、在宅勤務の日に出社したときの交通費の決まりが見つかりませんでした。人事部に確認してください。
RAG のコースでは、検索は1回だけでした。エージェントにすると、1回目の結果を見て「足りない」と判断し、言葉を変えて探し直せます。これが、エージェントの強みです。
エージェントを作る部品は、次の5つです。
| 部品 | 人にたとえると | 例 |
|---|---|---|
| モデル | 頭 | GPT-6 Luna など |
| 道具 | 手足 | 資料の検索、計算、予定表の読み取り、下書きの保存 |
| 指示 | 仕事の説明書 | 役割、手順、守る決まり(システムプロンプト) |
| 記録 | 記憶 | 依頼・道具の呼び出し・結果を順に積んだメッセージのリスト |
| 止まる条件 | ブレーキ | 答えが出た、ステップの上限に達した、人の承認を待つ |
5つ目の「止まる条件」を忘れないでください。モデルは、うまくいかないと同じことをくり返すことがあります。ブレーキのないエージェントは、道具を呼ぶたびに料金がかかり続けます。
ワークフローとエージェント
LLMに仕事をさせる方法は、エージェントだけではありません。Anthropic の「Building effective agents」では、次の2つを分けて考えています。
- ワークフロー:手順をあらかじめコードで決め、その手順の中でLLMを呼ぶ
- エージェント:次に何をするかを、LLMが自分で決める
毎朝の業界ニュースの紹介で比べてみます。
| ワークフロー | エージェント | |
|---|---|---|
| 流れ | 決まったキーワードで検索 → いちばん新しい記事を要約 → 下書きを保存 | 依頼に合わせてキーワードを決め、見つからなければ探し直し、合う記事を選んで下書きを作る |
| 動き | 毎回同じで、予想しやすい | その場の判断で変わる |
| モデルを呼ぶ回数 | 決まっている(この例では1回) | 毎回違う(3回のことも10回のこともある) |
| 向いている仕事 | 手順を書き出せる仕事 | 手順を前もって決められない仕事 |
同じ記事では、「できるだけ簡単な方法から始めて、必要なときだけ複雑にする」ことを勧めています。1回のLLMの呼び出しで済むならそれで十分、手順が決まっているならワークフロー、それでも足りないときにエージェント、という順番です。
エージェントが向く仕事・向かない仕事
向いている仕事
- 調べながら次を決める仕事:調べた結果によって、次に調べることが変わる(競合の調査、エラーの原因の調査)
- 道具の組み合わせが毎回違う仕事:問い合わせによって、注文を調べる・在庫を調べる・規程を調べる、と使う道具が変わる
- やり直しが要る仕事:見つからなければ探し直す、テストが通らなければ直し直す
- 多少の時間とお金がかかってもよい仕事:人がやると30分かかる仕事を、数分と数十円でできるなら十分に元が取れる
向いていない仕事
- 手順が決まっている仕事:毎月同じ形の集計や、決まった形のメールは、ワークフローやふつうのプログラムのほうが確実で安い
- 1回で答えられる仕事:メール1通の分類や、文章の要約は、1回のLLMの呼び出しで足りる
- すぐに答えが要る仕事:エージェントはモデルを何度も呼ぶので、数秒で返したい画面には向かない
- 間違いが許されない操作を、人の確認なしにする仕事:送金、契約、お客様への一斉送信など。エージェントに任せるなら、最後の一押しは人がする
迷ったら、次の3つを自分に聞いてみてください。
- この仕事の手順を、紙に書き出せるか(書き出せるなら、まずワークフローを考える)
- 間違えたとき、取り返しがつくか(つかないなら、人の承認をはさむ)
- 1回の仕事で、モデルを何回まで呼んでよいか(時間とお金の上限を決める)
ウマたんエージェントは「何でもやってくれる魔法」ではなく、「道具の使い方を任せられる部下」くらいに考えるのがちょうどいいです。部下に仕事を頼むときと同じで、使ってよい道具、守る決まり、困ったときに相談するタイミングを、こちらで決めてあげることが大事ですよ。
エージェントならではの危なさ
チャットのAIの失敗は「間違った文章を書く」ことでした。道具を持ったエージェントの失敗は「間違ったことをする」ことです。
- 間違った操作:「キャンセルしようか迷っている」を「キャンセルして」と受け取って、取り消してしまう
- 止まらない:同じ検索を何十回もくり返し、料金がふくらむ
- 外の文章にだまされる:読んだWebページやメールの中に「この内容を外に送って」のような文がまぎれこんでいて、それに従ってしまう
このコースでは、取り消せない操作の前に人の承認をはさむしくみを4つ目のレッスンで、こうした危なさを防ぐ守りを最後のレッスンで、実際にコードで作ります。
このコースで作るもの
このコースは、次の6つのレッスンで進みます。
| レッスン | 内容 | 動かす場所 |
|---|---|---|
| 1. AIエージェントとは?いつ使う? | エージェントのしくみと、向く仕事・向かない仕事(このレッスン) | — |
| 2. エージェントのループを自分で書く | 練習用のモデルで、ループと止まる条件を一から書く | ブラウザ |
| 3. LangGraph でエージェントを作る | LangChain の create_agent と、LangGraph の状態・ノード・エッジ | Colab |
| 4. 道具を作り、人の承認をはさむ | ニュースを探して X の投稿の下書きを作り、人が承認してから予約するエージェント | Colab |
| 5. エージェントの動きを見える化する | 手元の表示、LangSmith のトレース、開発用のサーバーと Studio | Colab・自分のパソコン |
| 6. エージェントを安全に動かす | 権限・引数の確かめ・上限・プロンプトインジェクション・ログ | ブラウザ |
2つ目と6つ目のレッスンのコードは、ページの中の「▶ 実行」ボタンで、ブラウザの中でそのまま動かせます。APIキーも料金も要りません。3〜5つ目のレッスンでは OpenAI の API を使うので、使った分だけ料金がかかります(このコースの範囲ならごくわずかです)。
エージェントを作るライブラリには、このコースで使う LangChain・LangGraph のほかにも、OpenAI Agents SDK・Claude Agent SDK・Google の Agent Development Kit などがあります。書き方は違っても、中で動いているのは同じループです。2つ目のレッスンでループを自分で書いておくと、どのライブラリを使うことになっても、中で何が起きているかが分かるようになります。
演習
解答を見る
解答の一例です。
- 1回のLLMの呼び出し:2(メール1通を読んで分けるだけなら、1回で足ります)
- ワークフロー:1(手順が毎回同じです。集計とメールはふつうのプログラムで作れ、LLMすら要らないかもしれません)、6(RAG のコースで作った「検索して答える」で足ります。見つからないときに言葉を変えて探し直させたいなら、エージェントにする意味が出てきます)
- エージェント:3(何を調べるかが、調べた結果で変わります)、5(原因を調べ、直し、テストが通らなければまた直す、のくり返しです。AIコーディングのエージェントがまさにこれです。直した結果は人が確かめます)
- AIに最後まではさせない:4(お金が動き、取り消せません。金額の計算や振り込みの準備まではAIに手伝わせても、実行は人が承認します)
6のように、同じ仕事でも「どこまで求めるか」で答えが変わります。まず簡単な方法で作ってみて、足りないところが見えてから、エージェントにするかを決めましょう。
まとめ
- AIエージェントは、目的を伝えると、自分で道具を選んで使いながら、何ステップもかけて仕事を進めるAI
- 動きは「考える→道具を使う→結果を見る」のくり返し。部品は、モデル・道具・指示・記録・止まる条件
- 手順をコードで決めるのがワークフロー、次に何をするかをLLMが決めるのがエージェント。簡単な方法から始めて、手順を前もって決められないときにエージェントにする
- エージェントは「する」ので、失敗も「間違ったことをする」になる。取り消せない操作には人の承認をはさむ
次のレッスンでは、エージェントのループを Python で一から書いてみます。本物のモデルの代わりに台本どおりに答える練習用のモデルを使うので、ブラウザの中だけで、APIキーなしで試せます。
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