公開日:2021年3月14日
この度、縁がありオトナル社でデータサイエンスチームのリーダーを務める島村知寛さんにインタビューする機会をいただきました!
「ラジオ業界のデータ活用って、まだまだ可能性があると私は信じています!」
島村知寛さんは、そう笑顔で話し始めました。
彼は現在、radikoのデータ分析基盤「radiko ダッシュボード」の開発責任者として、ラジオ業界の変革に挑んでいます。
目次
データの世界に足を踏み入れたきっかけは?
「大学時代にデータマイニングの研究室に入ったのがきっかけです。当時、『ビッグデータ』というキーワードが世間を賑わせ始めていて、なんとなく『データ関連のスキルを自分の強みにしたいな』って思っていました。」
その漠然とした思いは、今や大きな結実を見せています。
オトナル社では、データサイエンスチームのリーダーとして、ラジオ局向けの分析基盤の開発を率いる立場に。
ラジオ局の方々と対話を重ねながら、必要な指標の選定から、データの処理方法、開発の優先順位まで、幅広い判断を担っているそうです。
なぜ、radikoのデータの可視化に取り組もうと思ったのですか?
「実は、これまでのラジオ業界って、2ヶ月に1回のアンケート調査しかなかったんです」と島村さん。
YouTubeやNetflixなど、新しいメディアが次々と登場する中、この状況では番組の改善サイクルが追いつかない。
そんな課題意識があったといいます。
「そこで開発したのが『radiko ダッシュボード』なんです。特に画期的だったのは、色々な『維持率』が見えるようになったこと。番組を最後まで聴いてくれる人の割合や、週間番組の定期リスナーの比率など、今まで分からなかったことが数字で見えるようになりました。1分単位でリスナー数の変化も追えるので、どんなコーナーで離脱が多いのかまで分かるんですよ」
技術選定で重視したポイントは?
「とにかく『スピード』を重視しました」と島村さん。
既存のインフラを活用しながら、必要な部分だけを新規導入する方針を取ったそうです。
「特にETLツールのDataformは、SQLベースでフルマネージドなクラウド環境が使えるので、データ処理の本質的な部分に集中できるんです」
データの設計では、どんな工夫をされたのでしょうか?
「汎用性と最適化のバランスには本当に悩みましたね。例えば『合計リスナー数』だけを集計すれば管理は楽になりますが、新しい切り口での分析が必要になった時に困ります。だから、ヒアリングを重ねて『この粒度なら当分は大丈夫だろう』というさじ加減を探りました」
プロダクトは具体的にどんな変化をもたらしましたか?
「大きく2つありますね。1つは、データを見る文化が根付いてきたこと。より頻繁にデータを確認するようになって、番組改善のサイクルが速くなりました」
「もう1つは、将来の戦略が具体的になったこと。ラジオって、どうしても大人向けメディアというイメージがあるんです。若い世代を惹きつけるために、具体的に何人くらいリーチすれば良いのか。そんな具体的な目標が立てられるようになりました」
新番組の企画でも変化が。
特別番組の実績データを見ながらレギュラー化を検討するなど、より客観的な判断ができるようになったそうです。
開発を進める中での課題は?
「作り手とユーザーが違うことの難しさは感じましたね」と島村さん。
「ラジオ局の業務を完全には把握していない私たちが、本当に使えるプロダクトの要件を定めていくのは簡単じゃありませんでした」
解決の鍵は3つ。
・スピーディーなプロトタイプ開発
・密なコミュニケーション
・そして導入先での仲間づくり
「特に仲間づくりは重要でしたね。現場のことを深く理解している人と一緒に進めることで、より良いものが作れました」
日本のデータ活用の未来について、どうお考えですか?
「意思決定者のマインドセット変革が重要だと感じています」
まだまだKKD(経験、感、度胸)での判断が多い中、必要なデータをすぐに参照できる環境と、データに基づく意思決定の文化をどう作っていくか。それが次の課題だと島村さんは考えています。
「クラウド環境も随分と使いやすくなってきました。あとは、データを活用する文化をどう広げていけるか。それが鍵になると思います」
radikoのデータ分析基盤の開発。それは単なるツール開発を超えて、ラジオ業界全体のデジタル化を推進する大きなチャレンジとなっています。
島村さんたちの挑戦は、まだまだ続きそうです。